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東京高等裁判所 昭和30年(ラ)421号 決定

抗告人 武田正克(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は原審判を取り消す。本件準禁治産宣告の申立は却下するとの決定を求め、その理由として別紙抗告理由記載のとおり主張した。

仍つて、按ずるに、

本件記録に徴すると、

抗告人の父武田誠は昭和二十八年○月○○日死亡したので、抗告人はその遺産として山林一町七反歩、田畑約七反歩と住居の土地(百九十三坪)家屋(二十八坪)を相続し、亡父の妹武田サト(精神病者)と二人で生活し農業を営んでいたが、抗告人は父の死亡後間もなくから、酒色に耽り農業に精励せず、パチンコ屋を始める為武田太郎その他親類の者等から資金を借り受け、若し成功しなかつたときは農業に専心する約束であつたが、結局失敗して休業中にも拘らず、農業に従事することなく相変らず徒食している。そして、既に昭和二十八年○○月○○日山林の立木を四万二千円で山本省一に、昭和二十九年○月○日田三畝二九歩を川村明男に、同年○月○○日雑立木を金四万円で松本六蔵に夫々売り渡し、同年八月○○日武田進から田二筆七畝十五歩を担保として金五万円を、また、同年○月○日武田一雄から田二筆一反一畝三歩を担保として金五万百二十五円を夫々借り受け、また、同年○月○日山林二筆二反九畝十八歩を武田与助に売り渡したので、借財を整理すると、財産は田畑約一反歩位を残すだけとなる状態であるため伯父山際幸道は準禁治産宣告の申立をしたが、抗告人は親族等の勧告によつて叔母武田サトの生活を確保する為居宅宅地田一反二九歩、畑三筆一反二畝余を同人に贈与することを約束したに拘らず、これを履行せず却つて、昭和三十年○月○日宅地、家屋を川上次郎に売り渡す契約をなし内金五万円を受け取り、同人のため所有権移転請求権保全の仮登記をしたこと、抗告人は再び農業に専心する考えはなく、充分の資本もないのに依然パチンコ屋をやるつもりであることなどが認められる。

以上のような事実から考えると、抗告人は昭和八年○○月生れの二十一歳の青年であり、家族は叔毋一人であるから、若し家業の農業に専心すれば二人の生活は充分立ち得るものといわなければならない。然るに、抗告人はパチンコ屋のような不安定な営業を始め失敗したにも拘らず、しかも資金も充分にないのに依然としてこれに執心して農業を顧みず、酒色に耽つて借財を重ね、遺産も借財を整理すれば残るところは田畑約一反歩を残すにすぎないような状態に陥り、精神病者の叔毋の生活を確保するため同人に贈与することを約束した家屋敷、田畑まで売却せんとするような状態であるから、若し、このまま放置すれば抗告人は結局その財産全部を失い、武田サトの生活にも支障を来すおそれが多分にあるものと考えられる。

従つて、抗告人は浪費者と認めるのが相当である。

抗告人は、借財はパチンコ屋の事業資金に使用したものであつて、酒色の資に使つたものではないと主張し、その他抗告人は浪費しているものでないことを種々陳弁しているけれども、右認定を覆し、抗告

人の主張を是認するに足る資料はない。

原審における抗告人本人審判調書の記載内容はにわかに採用し難い。

然らば、抗告人に対して準禁治産の宣告をした原審判は正当であつて、他に原審判を違法とすべき瑕疵は認められない。

依つて、本件抗告は理由がないから、これを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 浜田潔夫 判事 仁井田秀穗 判事 伊藤顕信)

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